[New moon cafe Merta Sari] 第5話 10月の新月 ものがたり その2

到着した小屋は “ヨクサルの小屋” と呼ばれる小屋で、

古民家を改装した “山村テラス”、 “月夜の蚕小屋” に次ぐ3番目の、つい最近完成させたばかりの小屋とのことだった。

「ヨクサル、、、ってなんでしたっけ、、、?」

私が遠慮がちに尋ねると

 

「ヨクサルって、北欧フィンランドの、ムーミン谷に住む仲間たちの中の、スナフキンって、いるでしょう?あのスナフキンのお父さんのお名前みたいなの。

ふふふ。なんでそんな名前をつけたのかって、こちらの小屋を建てられた大悟さんにお会いしたら納得されるかもしれませんよ。」

といたずらっぽくエミさんが答えてくれた。

小屋の中に足を踏み入れると、まず目に入ったのが薪ストーブ。そして傍に積まれた薪だった。

薪をくべて火をおこす小屋だなんて!!まるで北欧の写真集で見たサマーコテージみたい!と目を丸くした。

そして、流木や丸いままの木がふんだんに使われた、とても優しい空間。


明るい木の色の間に、大きく取った窓の外から差し込む森の光が溢れんばかりに輝いている。

らせん状の階段を、すべすべの木の柱の感触を確かめながら登って行くと
少し天井の低い、秘密基地のような二階があり、そこがベッドルームだった。

こちらは小さな天窓と、そこから見える四角く切り取られた、真っ青な秋の空。

そして踊り場には小さな作り付けの机と椅子があり、ホテルに備え付けてあるレターセットとはまた違った顔つきの、それはまさに自分の部屋でお気に入りの文房具を使って、もくもくと絵を描いたり、手紙を書いたりするための
紙や鉛筆が置いてあった。

そしてそばにスケッチをするための色鉛筆まで用意されているのを見つけると、嬉しくなって思わずそれを手にとった。

 

この小屋を誰かに提供しようと思った大悟さんとおっしゃる方、オーナーさんの気持ちを手に取るように。

そして、その見えないメッセージに応えるように、子どもの頃こういう小さな隠れ家みたいな場所に体を押し込めて、夢中で絵を描いたり、手紙を一生懸命に書いたりするのが大好きだった自身の幼少期の時間を思い出していた。

外で友達と声をあげて走り回ることも大好きだったけれど、ぐっと自分の中に降りてゆく、深く集中した時間も同じくらい大好きだった。

時間を忘れて絵を描き続けて、夕飯の時間になっても出てこず母を困らせた、そんなこともが何度もあった。

 

そして、作り付けの小さな本棚には幾つかの絵本や英字小説、そしてムーミンの原画のフィンランド語の絵本と、カードゲームが置かれていた。

色と数字を組み合わせて遊ぶシンプルなルールのそのカードゲームは何度やっても飽きることがなく、トランプと同じくらい我が家では活躍していた。

 

 

久しぶりにその赤字に黄色い文字の箱を手にとって、まじまじと見ていると、自分自身がまだ小さな子どもで、そして父や母といった大人たちに囲まれ、何の疑いも怖れもなく、ただただ守られて過ごした日々があったことを私に思い起こさせた。

カードゲームをするのは土曜日の夕食の後で、家族全員が床に座り、付けっぱなしのTVBGMに丸くなってワイワイ言いながら勝ちや負けを競った。

大抵一番年下の私が負け続け、それで嫌になって機嫌を悪くして泣くか怒るかして、遊びはお開きになるのだった。

 

今の私とほぼ同い年くらいの当時の父と母。まだ若いその夫婦にも色々なことがあったはずだし、ケンカが絶えなかったこともあるはずだけれど、カードゲームと共にあるのは物語に出てくるような、暖かい「父」と「母」の姿だった。

 

まだスマートフォンも、携帯電話も、TVゲームすらもなかった私の子どもの時代。

カードゲームを中心に集まる時間があって、家族のふれあいがあって。なんとなくその当時の時間の流れも含め、

 

すべてがこの小屋の中で急に鮮明に思い出され、ノスタルジーとして私の身体を揺さぶった。

 

Written by Saki IKEDA

その3は明日10/11(木)にupします