「生活のこととか、本当にちゃんと考えようと思って。
だからまずは鶏を飼おうと思ってるんです。」
一呼吸おいて、その言葉の意味を理解した私は頭をガーーーンと殴られたようなショックを受けた。
***
ちゃんと、 というのがどういう意味かを
突きつけられたような気がした。
労働の対価として金銭を得て、その金銭で交換する食べ物はこれでいいのかな?その食べ物はどんな風にできているのかな?
そしてもっというと
その循環を自分の生活としていくのかな?
そんな根本的な問い。
大悟さんのところの赤ちゃんは、鶏が卵を産むのを見て、それを食べて育つのかなあ。
そして大悟さんは親として、それをしたいなと思ったのだなあ。
以前、養鶏場を見に行ったことがある。狭い棚のような場所に鶏が動けないほどひしめき合っており、産み落とした卵はベルトコンベアーで運ばれてゆく。
鶏たちがお互いをクチバシでつつき合うのを防ぐためにクチバシの先はあらかじめ切られている。怪我をして感染病にかかったり、傷口が広がって死に至る事を防ぐためだ。
そして、卵を産ませ続けるために初めから抗生物質をエサにまぜて与え続けることが普通だと聞いた。
***
大悟さんの「ちゃんと」から伝わる事がとってもたくさんあった。
そして最後に、大悟さんは
「これからのことは、でも今は何も決めないで、ゆっくり考えようと思うんです。」
と言って笑った。
***
「さあ、チェックアウトの前に、腹ごしらえとしましょうか!朝ごはん、というよりもうお昼ご飯に近いけれど。もしよかったら、大悟さんもいかがですか?」
明るいエミさんの声でハッと我にかえった。
大悟さんと2人で食卓につくと、ほかほかと湯気の出ている深いお皿に盛られて出てきたのはリゾットのようなものだった。
「これはキチュリと言います。スパイスのたっぷり入ったお粥のようなもので、お豆とドライフルーツ、そしてナッツもたっぷり入っていて、この時期にぴったりの配合にしてありますよ。
リトリートの最後に、どっさりと出せる体になって帰って行ってくださいね!」
森の氣で身体が満たされているからか、ヨーガとプラーナヤーマのおかげなのか、
空腹は感じているもののいつものようなむやみな「食べたい食べたい!」という欲求がなかった。この満ち足りた心身を、また日常へ持って帰りたいなあと思った。
エミさんが出してくれたキチュリは、レストランやカフェなどでは出ることのない、家庭のキッチンファーマシーの1つだった。
慈愛に満ちて、美味しく、そして食べたことのない味に
身体全体が喜んでいた。
やまない鳥のさえずりと、晩秋の森の木々と光。
そして冴え渡る空と、透明な空気。
全てを全身で受けながら、3人でもぐもぐと
幸せな時間を噛み締めた。
<New Moon Café森のリトリート編 後編 完>
Written by Saki IKEDA
次回は12月号!12/7創刊予定です!
New moon Cafe Merta Sari もくじ
11月の新月
◯Story-ものがたり
◯Recipe-レシピとオススメ
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