New moon Cafe Merta Sari 5月の新月 [ものがたり] 第12話 その1

《New moon café 森のリトリート 〜春のデトックス編〜  後編》

 

身支度を終えると、

窓からゆっくりと外の木々を眺めた。

五月の、若々しさに満ちた鮮やかな緑だった。

 

出てきたばかりの新芽や若葉は、生き生きとしたエネルギーが溢れ出して、見ているだけで元気が湧いてきた。

水道から出る美味しい山の水をコップにいれてごくごく飲んでみる。

 

手すりのすべすべした木の手触りが楽しくて、何度も1階と2階を階段を上り下りしてみる。

 

そんな風に一人、他愛のない時間を過ごしていると

すっかりくつろいで、まるで田舎のおばあちゃんの家で遊んでいる子どものような気持ちになっていた。

 

無邪気にいろいろなものを触っては、その感触を確かめて満足する。

遠くも近くも一緒で、間近なランプも、遠くに聞こえるせせらぎの音も、

 

どれもが等しい距離で自分の興味をかき立てた。

 

***

 

日が徐々に暮れて、森の中が碧くそまっていった。

木々は影絵のように、黒くそのシルエットを浮き立たせはじめていた。

 

「お夕飯にしましょうか」

 

と声をかけられゆっくりと静かにテーブルにつくと、エミさんと一緒の夕食の時間が始まった。

 

「いただきます」

 

色とりどりの美しい食卓に、二人で手をあわせる。

 

前回のリトリートでは、秋の実りが満載だったけれど

今回は春の野の恵みに満ち溢れていた。

前菜のそら豆や筍、メインのつけあわせの山うど、、、

 

どのお皿にもこの季節のはじけるようなエネルギーが詰まっていた。

 

「エミさん、すっごく美味しいです!」

驚いたように私がそういうと、エミさんも箸を止めて、ニッコリして

 

「ふふふ、美味しいですね。」

と言った。

 

 

「この佐久の地域のお野菜の美味しさは、水のおいしさからきていると思うんです。お水が本当に美味しい土地なの。

採れたてのお野菜を触ると、ああ、このエネルギーを体の中にいただくんだ!と、喜びに溢れる反面、料理をするのが畏れ多いような気持ちにもなるわ。

だからそんなお野菜そのものの味やエネルギーを覆い隠してしまわないよう、殺してしまわないよう、調味料は最小限にしています。

 

そのものの味を最大限に引き出せるような、素材ありのままを楽しめるような、そんなお料理ができたらいいなあと、日々思わせてくれるのがこの佐久の野菜たちなんです。

でもそれって、よく考えるとアーユルヴェーダのトリートメントと同じなんですけれどね。」

そういってエミさんはにっこりと笑った。

 

「アーユルヴェーダのトリートメントと同じ??」

私は首を傾げた。

「ええ。アーユルヴェーダをはじめとする東洋医学ってね、何かを人間に“施して”良くしていくのではないんです。あらかじめ、人間には治る力やエネルギーがあって、それを存分に引き出してあげること、それを引き出すことで、人は自分の力で勝手に治っていく。それを補助するのが医療者や施術者、セラピストの役割なの。

そこに元からあるものに敬意を払うこと、それに耳を傾けること、そしてその力を覆い隠しているものがあれば、それを取り除くこと、

そんな生命観は、治療だけではなく、お料理にも共通するんだなあって、New Moon Caféを始めてから、少しずつ気づき始めたんです。」

 

食べてくれる人の健康を願って、まっすぐな気持ち料理をしているから

こんなにも美味しく元気になるのかと私はずっと思っていたのだけれど、

それ以上にこんな引き算の考え方で料理をしていたなんて、と

私は驚いた。

 

そして、そこにある生命そのものへの全肯定、信用があるということに

心打たれた。

 

心配や不安ではなく、まずベースにそのものを信じているということ。

 

人間も、野菜も確かに同じ「生命」だ。

 

“生きとし生けるものへの思いやりの医学、それがアーユルヴェーダ” だと

 

私は授業で学んだ。

 

エミさんは、そういう風に生きているんだなあと

改めて思った。

 

そんなエミさんと一緒にいただくご飯はとても美味しくて、

お酒も音楽も、何もなくてもただそこにあるご飯の迫力や力強さ、エネルギーに、

 

嬉しくて眩暈がするようだった。

 

written by Saki IKEDA

つづき その2