《New moon cafe Merta Sari森のリトリート編 後編》
小鳥のさえずりと、天窓から差し込む朝の光で目が覚めた。
ふかふかの、羽布団の中で大きく伸びをする。
目覚まし時計を何回鳴らしても、起きられないいつもの自分が嘘のように、爽やかな気持ちだった。
雨に濡れた木々の葉っぱが、朝日を受けてキラキラと眩しく光っていた。
水を飲もうと階段を降りてゆくと、キッチンにはエミさんの後ろ姿があり、そしてシュンシュンと小さな音を立てて、やかんが湯気を立てていた。
刻一刻と朝の光が強くなり、木でできたこの家の中を明るく照らし始めている。
「おはようございます」
後ろから声をかけると、エミさんも振り返って「あ、おはようございます」と振り返ってにっこりと笑って言った。
いつもと変わらない、あの笑顔だった。
「昨日はよく眠れましたか?」
「はい、おかげさまで。とてもぐっすり眠れて、そしてパチっと自然に目が覚めました。」
その言葉を聞くとエミさんは嬉しそうに、朝日の中でまた笑った。
そしていつもよりも、ゆっくりとした手つきでやかんから耐熱のグラスにお湯を注ぎ、
「これ、起き抜けにお白湯。どうぞ。」
と厚いフェルトのスリーブに入れて手渡してくれた。
両手でグラスを受け取り、そっとお白湯を一口すする。
「お水じゃなくてお白湯がいいんですね。」と言うと
「はい、お水じゃなくて、起き抜けにはお白湯がいいですよ。」とエミさんが答える。
そのままテラスに出ると山の朝のひんやりとした空気が身体全体を急に包み込み、
ああ、少しずつ冬がもうやってきているのだな
と感じた。
雨に洗われた空気は、昨日よりもますます透明度を増しているようだった、
遠くから聞こえるせせらぎの音を聞きながら、ぼんやりと森を眺める。
手元のグラスから立ち上る湯気が顔に当たり、なんとも言えない幸せな気分だった。
「もうすぐに、冬がやってきますね。」とエミさんが肩にかけたショールを胸元に引き寄せながら、言った。
身体は軽く、心も冴え渡り、あまりにも美しい朝だった。
「エミさん、すごいですね。トリートメントを受けて、しっかりと汗をかいたからなのか、とても身体が軽いです。日常での朝とは比べものにならないくらい。気持ちがいいです。こんなに朝から気持ちがいいのは始めてです。」
そういうと、エミさんも
「それは良かったです。」と言って嬉しそうに微笑んだ。
「今朝はこの後お手洗いを済ませたら、一緒にプラーナヤーマとヨーガのポーズをしましょうね。そして、終わったら軽い朝食にしましょう。」
「プラー??なヤー、、、マ??」
聞きなれない言葉に、首をかしげると
「プラーナというのは、目に見えない微細なエネルギーのこと。プラーナヤーマというのは呼吸法のことなんです。ヨーガのアーサナ以上に、とってもパワフルで大切なものなのですよ。」
とエミさんが答える。
「えっと、、アーサナって、、、?そして私身体が固いし、ヨガをあまりやったことがないけれど大丈夫ですか??」またしてもたじろいていると
「あ、ごめんなさい。アーサナというのはいわゆるヨーガのポーズのことなの。そしてヨーガというのは本来ポーズ、つまりアーサナがメインではなくて、そこに伴う呼吸と、最後に行う瞑想自体が目的なの。ポーズはその為の準備としてあるようなものなんです。
できる/できないとは無縁の世界だから、自分が気持ちの良いと思う範囲で身体を動かして、そして一緒に瞑想をしましょうね。」
エミさんはそう言って、テラスになれた手つきでヨガマットを敷いてくれた。
Written by Saki IKEDA
New moon Cafe Merta Sari もくじ
11月の新月
◯Story-ものがたり
◯Recipe-レシピとオススメ
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