「以前、スパイスは食事と薬の中間にあるもの、、、ってエミさんおっしゃっていましたよね?」
以前New Moon Caféで尋ねたときにそう言っていたことを思い出して
エミさんに再びそうきいてみた。
「そうですね。昔からスパイスやハーブはちょっとした心身の不調にその都度使ってきたものだそうです。だからホームドクターは、町のお医者さんではなく、毎日キッチンに立つ自分自身やお母さんお父さん。家庭によってはおばあちゃんおじいちゃんかもしれません。
日本ではアーユルヴェーダというと、オイルマッサージのイメージが強いかもしれませんが、こういったキッチンファーマシー、台所が薬局代わりの、おうちでできるプチ療法もアーユルヴェーダの醍醐味だなって思います。そしてそれもスパイスやハーブの不思議な力があってこそ。
本当にね、不思議だなあっていつも思うんです。
そしてお野菜や果物そのものが持つ力を借りることや、調理法も含め、キッチンでできることってとっても多いなあって思います。そして自然の実りって本当に偉大だな!とつくづく感じますね。自然の実りあっての、ファーマシー(薬局)ですからね。」
まだまだ暖かいチャイをふうふうとすすりながら、エミさんは感じ入るようにそういった。
きっとヨーガを続けてきたこと、そしてアーユルヴェーダのセラピストをしている中で気付いたことが、New Moon Caféに全てつながっているのだろう。
何よりも、エミさんが野菜や果物、そしてスパイスなど大地からの実りに大きく心を動かされていることが伝わってきた。
***
そのままゆっくりとおしゃべりをしたり、足湯をしたり、お部屋の掃除をしていると、
あっという間にチェックアウトの時間となった。
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突然カランコロンとドアベルがなり、おはようございますー
という男性の声が聞こえた。
エミさんが
「あ、大悟さんだわ」
と言ってドアを開けに行った。
私はちょっとおかしいけれど、とっさに樹上から下界の様子を見守る小動物のようになった気持ちで、階段を駆け上がり、二階の部屋から下の様子を息を潜めて眺めることにした。
いつものように、社交的に挨拶をしに行ってもいいのだけれど
ずっと自分の中でふかふかと丸まっていたような気持ちだったので、急には外に出るのがなんだか恥ずかしく、少しためらいがあったのだ。
日頃だったらこんな小さな心の機微には無頓着で、それよりも大人として、社会人として、やらなくてはいけないこと、やるべきことを優先してきているのに急に子どものようになっている自分が可笑しく、
そしてそんなワガママを自分に許せてしまっていることもまた、特別な贅沢のように感じて、くすぐったいような気持ちだった。
***
質の良いフェルトの帽子をかぶった、背の高い大悟さんと、エミさんが、小屋を出る前の、いろんな事務的なことを笑顔を交えて話していた。
旧知の仲のようで、二人のリラックスした姿を見ていると私も嬉しくなった。
この方がこの小屋を建てたのね、、と思いながら、私もどうしても大悟さんとお話ししてみたくなって、髪を手で少し整え、トントンとらせん状の階段を降りて行った。
Written by Saki IKEDA
New moon Cafe Merta Sari もくじ
11月の新月
◯Story-ものがたり
◯Recipe-レシピとオススメ
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