自分の原点でもあるというバリ島の研修から帰国したばかりのエミさんは
迷いのないエネルギーに満ちていてまばゆく、ああ、自然の中でのエミさんのリトリートは
今とても私に必要なタイミングだ、と直感した。
東京では桜が満開にちかづいているにもかかわらず、
ここ長野の4月はまだまだ草木は茶色く、木々の芽も膨らむ前だった。
標高のたかいところではまだ雪が残っているという。
少し懐かしい、冬の冷たい空気。
ヨクサルの小屋の薪ストーブが楽しみになった。
「メルタサリ、森のリトリートへようこそ」
エミさんが車から降りて、またいつもの笑顔で駅で出迎えてくれた。
私も顔が思わずほころぶ。
2回目のアーユルヴェーダリトリート。
最初は旅先のようだったNew Moon Caféのある街が、
徐々に馴染みの街になっていったように、
軽井沢から一つ先の、佐久平で新幹線から3両編成の小海線に乗り換えてやって来るこの駅も
なんだか既に懐かしく、馴染みの場所に帰ってきたような気持ちになっていた。
山々の中にある信州は、ほんとうに様々な場所があるけれど、ここ佐久穂は
人を包むような静謐なエネルギーをもつ一種特別な場所だと長野は白馬出身の友達が言っていた。
湖のような白駒の池があり、白樺の群生する佐久穂。
リトリートの場所であるヨクサルの小屋一帯は標高1,000mを超えているとのことで、それも日常のエネルギーとは違う状態になれる理由のひとつかもしれない。
.
「道中はいかがでしたか?」
すいすいと車を運転しながらエミさんが尋ねる。
「はい、新幹線も混んでなく、とても快適であっという間でした。」
と私も答える。
当たり障りのない会話のなかにすら
エミさんの爽やかなエネルギーが流れ込んできて
気持ちが良かった。
今回のリトリートでは、アビヤンガというオイルを使った全身の浄化療法以外にも、ヨーガや瞑想、そして朝はプラーナヤーマという呼吸法も行うという。
秋のリトリートのあとに訪れた自分自身の確かな変化や、深く充足した心、そして元気が身体中にみなぎってきたことを思い出す。
今回はもっと深く、いろいろなことに取り組めるとのことで
更に深い休息とリセットが楽しみだった。
レジャーのように、外側に興味や期待の対象があるのではなく
自分自身を対象に楽しみを見出していくこの感覚は
とても新しく、ワクワクしていた。
山の空気を吸っているだけで、いつのまにか頭はスッキリとしてきていた。
ヨーガの会場である、森の中にたどりつき、ヨガマットを広げる。
今回また新しく見る、ヨーガの先生であるエミさんの顔。
移動でむくんだ身体をゆっくりとほぐした後、明朗に響く声でサンスクリット語でのチャンティングがあり、
静かになった気持ちの上で、ヨーガのアーサナ(ポーズ)が始まった。
一つひとつの動きのなかで、日頃使っていない身体の部分があること、縮んだままの筋肉がここそこにあることに気づかされ、それを一つひとつ呼吸とともにゆっくりと伸ばし、広げていく。
実はヨーガはおしゃれすぎて苦手だな、私は昔から身体も硬いし向いてないだろうな、と勝手に遠ざけてきていたのだけれど、
エミさんのヨーガはそんな偏見や苦手意識を取っ払って、ダイレクトに今の自分の身体と向き合わさせてくれる不思議なヨーガだった。
そして呼吸に合わせて徐々に身体を開き、じっくりとアーサナ(ポーズ)を取っていくヨーガは、まるで内側から身体をほぐしていくマッサージのようで、最後のシャバアーサナという完全弛緩のポーズの際にはすっかり身体は柔らかくなり、うっすらと汗もかいていた。
「おつかれさまでした。ありがとうございました。」
最後のチャンティングの後、エミさんが胸の前で両手を合わせゆっくりと目を開けた時には、あっという間に2時間が経っていた。
深い深い、2時間だった。
ああ、帰ってきたなあ、と思った。
自分自身の身体の中に、ストンと自分が戻ってきたような
そんなしっくりくる安堵感があった。
これから小屋に向かい、そしてお風呂を沸かし、ハンモックに揺られながら夕食を待ち、蒔ストーブの火を眺めながらゆっくりとおいしいごはんを頂くのだ。
スイッチが切り替わって、日常が遠く離れて行く。
Written by Saki Ikeda