「おはようございます」
私が遠慮がちに言うと、二人がこちらを向いた。
「初めまして。お世話になりました。」
まずはそうお礼を言うと、
「あ、初めまして。岩下大悟と言います。」
と大悟さんがこちらを見て目を細め、そしてぺこりと頭を下げた。
「滞在はいかがでしたか?」
「はい、とっても気持ちが良かったです。本当に。信じられないくらい。」
「それは良かった。」
大悟さんは嬉しそうにまた目を細めて、部屋の中を見回した。
「この小屋は本当に大悟さんが作ったのですか??」
私が改めて尋ねると
「ええ。本当にゆっくり、できる範囲で作りました。小屋を建てようって、友達と言ってね、それからずいぶんと時間をかけて。
ほら、小さな頃に秘密基地とか作るじゃないですか?大人に見つからない場所に。もうそういうノリで、秘密基地を作るような感覚で、ワクワクしながら。
だからね、作りながら変わってきてしまうんですよ。あれもいいな、やっぱり柱はこうしよう、壁がこうだから、、とか。」
大悟さんは笑いながらそう言った。
私は「えええ!」と思わずびっくりした。
そんな!おままごとのように言うけれど!こんな立派な小屋を作れるこの人は本当に只者ではない人なんだ、、、とまじまじと大悟さんの顔を見つめた。
「このヨクサルの小屋が3軒目なんですよね?」
と私は尋ねる。
「そう。とは言っても作りかけのままほっぽっていたりした時期もあって。途中で北欧に行ったりもしました。でもフィンランドに行って帰ってきて、また改めて小屋、作ろうって思ったり。
本当適当に、適当にやってるんですよ。」
とまた私の予想外の言葉で大悟さんは答える。
と言うのも、この小屋は適当とは程遠い、本当に綿密に人のこと、ここちの良さを考えて設計された隠れ家のように思えたからだった。
私は大悟さんという人のことがもっと知りたくなった。
「大悟さんは今何をされているんですか? そしてこれからまた小屋を作っていくんですか??」
あまりにもダイレクトな質問にもかかわらず、大悟さんは嫌がりもせず
少し考えてからまっすぐな目でこう答えた。
「今は、何にもしていません。こうやって、小屋の宿泊を管理したり、それで手いっぱいです。
そして、ちょうど子どもが先月、生まれたんです、」
「わあ、おめでとうございます。」
突然の話の展開にまたしてもびっくりしながら、私はお祝いの言葉を述べた、
子どもが生まれるということは、本当に嬉しいことだ。それが誰のことであっても。
「ありがとうございます。だから、これからのことをちゃんと考えようと思って。」
そうか、と私は思った。男性だし、きっと家族ができるということは責任も出てくるし、金銭的なこともいろいろと変わってくるのだろう。
なんとなく、想像でしかないけれど、「これからのことを」「ちゃんと」という言葉には、もう子どもではいられないよ、現実的なことを考えていかなくてはいけないんだ、
というようなニュアンスが含まれているような気がした。
そういえば、みんな「これからのことを」「ちゃんと」考えて、学生生活を終え、スーツに着替え、就職活動をし、社会人になっていったっけ。
あの時は、自分なりに一生懸命だったつもりだけれど、今の自分のままじゃ駄目なんだ、社会が求める「ちゃんと」に応えられる自分にならなくては、それが大人になるっていうことだから、と何だか急き立てられるように、前に進んでいった。
とりあえずやりたい職種を探し、たくさんの面接を経て、「これからのこと」を考えて今の会社を選び、就職した。
しかし、大悟さんの口から続いたのは意外な言葉だった。
Written by Saki IKEDA
New moon Cafe Merta Sari もくじ
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◯Recipe-レシピとオススメ
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