あの森の中でのリトリートから2ヶ月。
軽やかになった身体や心でスタートした東京での秋の日々は本当に素晴らしく、いつもの日常も違って見えた。
澄んだ空気の感じや、手を伸ばせばいつも届くところにあった木々の幹。下生えの香りを生活の中で断片的に思い出すことができた日々も、少しずつ東京の慌ただしいサイクルの中に溶け込んで消えていった。
ちょうどまた、エミさんに会いたいなあと思った頃にカレンダーを見ると
新月が近づいていて、
自然とNew Moon Caféに足が向いた。
毎月違うメニュー。
食べ物から得る未知のエネルギーにワクワクしながら
「いらっしゃいませ」というエミさんの声や
テーブルを拭いていた手を止めて、顔を上げてにっこりと微笑むエミさんの顔とそこにある空気にホッとしたくて
その駅を降りる。
最初は見知らぬ風景だったこの街も、徐々に自分の馴染みの風景になった。
このNew Moon Caféに行く時だけは、心持ち胸を開き、大きく深呼吸して、そして看板や文字を追うことなく、目を内側に向けて、心の中をゆっくりと確かめるように進む。
自分の右足のつま先、かかと、左足のつま先、かかと、と
地面と足の裏の接触を、一歩一歩確かめるように歩くと
目的地へ向かうことすらも忘れて、何か歩くことに没頭して
気持ちが良くなってくるのだった。
***
今年は12月に入っても、まだまだ暖かく、
コートもまだ薄手のものを着ている。
そしてまだ身体も冷え切っていないせいか、気持ちも明るく12月を迎えていた。
冬の訪れは年々遅くなるのだろうか。
街路樹のイチョウ並木は今まさに黄金の、最も美しい時を迎えていた。
クリスマスイルミネーションに紅葉なんて、と少し無粋に思いながらも
それはそれで綺麗だなと思えてくるので、慣れとは不思議なものだとつくづく思う。
***
慌ただしい日常ではなかなか作れない時間。
New Moon Café へと繋がる道は、月に一度の神社やお寺や教会に、お参りやお祈りに行くような気持ちになって、参道を歩くように自然とその道すがら日常を振り返り、心を整える時間になった。
空を見上げると、やはりその色は秋の高く澄んでいたそれとは違っており、確実に年の瀬が近づいてきていることを感じることができた。
***
木々の間から
「New moon café Merta Sari」と書かれた看板が現れた。
ここだ、といつものように心の中で小さく思う。
何回来ても、この看板が見えてくる瞬間は
ふわっと風が吹いてくるように感じる。
少しドキドキしながらドアに手をかける。
が、あれ?
何か様子が違う。
そして扉はピクリとも動かない。
よく見るとテラス席の窓の中もまだ明かりがついておらず、中には誰もいない。
今までのふんわりと膨らんだ気持ちが急にこわばる。
どうしたんだろう?
反対手に回ってみても、Caféの中には誰もおらず、静まり返っている。
エミさんに何かあったのだろうか?
それとも、12月はお休み、、、?
元々HPも名刺も、連絡先も定休日もないお店だった。
強いて言うと、ただ新月の日にだけOPENするというそんなお店。
連絡のしようもないけれど、とりあえず不安になって携帯電話を取り出して見てみる。
最近は不安になると、大概反射的に携帯電話を見てしまう。
そして、近年ではスケジュールもメールも連絡先もお買い物も、日常のほとんどを携帯電話を通して行っているので
手帳をめくる感覚で、携帯電話のカレンダーを開いてみた時に
「あっ!」
と思わず叫んでしまった。
私が新月の日を間違えていたのだった。
新月を意味する黒い●のマークは、今日ではなく12月7日金曜日の箇所にポチッと記されており、
そこは昨日、すでに過ぎてしまっていた場所だった。
Written by Saki Ikeda
New moon Cafe Merta Sari もくじ
12月の新月
◯Story-ものがたり
New!《ものがたり》第7話 11月の新月 その4 (最終話)
◯Recipe-レシピとオススメ
New!
<12月のnew moon+1デリ>
[Recipe] 小松菜と芽ひじきとレンコンのホットビーンズサラダ
coming soon!
<12月のnew moon+1旬のお魚>
ブリのスパイシームニエル
<12月のスープ>
大根ポタージュ
<12月のパン>
365日のラシドネ