[New moon cafe Merta Sari] 第5話 10月の新月 ものがたり その3

ゆっくりだった。

 

小屋の周りを包みこむような木々、森の存在と少し遠くを流れる沢の音。

 

ここの時間はゆっくりしているのだ。


***

 

そしてこの小屋は、新しいものに出会った子どものように目を見開いてワクワクするそんな気持ちと、子ども時代の誰かの優しさに守られて、包まれて暮らしていた安心感を再び与えてくれる不思議な空間だった。

ふかふかのベッドの真っ白なリネンに、バフっと倒れこんで、

あーーこのまま潜り込んで寝てしまいたい、と目を閉じる。

 

***

その欲求にまかせ、しばらくまどろみながらゴロゴロして時を過ごし、

少し荷物の整理をしたりして、階下に降りてゆくと、

エミさんがコトコトと台所で何かを煮詰めながら、鼻歌を歌っていた。

 

 

 


台所の窓の外には秋の森が広がっている。

 

木々の間を満たす、乾いた暖かな光。

 

なんて美しい光景だろう、と柱に手をかけたまま立ちすくんでしまう。

 

 

 

もうすぐ夕刻となる、でもまだまだ陽が高く、みんなが外で活動しているような時間帯。

 

そんなの中、自分だけが一人世界の外にいて、みんなのいる世界を遠くからながめているような気分だった。

少し切ない、そして甘い優越感のような不思議な膜に包まれた
ひとりぼっちのような気持ち。

 

暖かな台所から立ち上る湯気。

 

「あのう、、、」

 

と私がそっと声をかけようかと口を開きかけたその時、

 

「あ!到着お疲れ様でした。」

 

と首を傾けながらエミさんがこちらを振り向き、ニッコリと微笑んだ。

***

 

エミさんが台所でクツクツ煮ていたのは、なんとアーユルヴェーダのトリートメントに使う、オイルだった。

通常のアロマトリートメントなどに使うオイルとは異なる、濁った緑色をした深い不思議なオイル。

 

「アーユルヴェーダのオイルは、ハーブや薬草から薬効成分を抽出して使うんですよ。本当にたくさんのハーブを、使うんです。インドのアーユルヴェーダの薬草。作り方は代々に伝わるもので、門外不出のものもあるんですけれど。」

と、当たり前のようにエミさんが言う。まるで魔女のようなそんな発言。

アーユルヴェーダのトリートメントは、通常午前中に、遅くとも日の出ている間に空腹時に行うとのことで、このまま移動でなんだかふわふわとしている身体をマッサージベッドに横たえ、

早速リトリートのアーユルヴェーダトリートメントが始まった。

 


事前のリクエストで、全身のオイルマッサージという一番シンプルなトリートメントをお願いした。

アーユルヴェーダのトリートメントは、単なるリラクゼーションではなく、老廃物をオイルで遊離させ、体外に排出される浄化療法で、正式には“アビヤンガ”というそうだ。

日常暮らしていると、何もしていなくても部屋にホコリが溜まってゆくように、暮らしていると身体も心にもいろいろなものが溜まってくる。それを一気にお掃除するというのがアーユルヴェーダの考え方とのことだった。

溜まってくる感覚、わかるなあ、とベッドに裸でうつぶせに横たえて、目を閉じながらしみじみと思った。抜けない疲労のようなもの、腸内の残便のようなもの、肩こりや腰の重さ、、。年齢だからしょうがないかな、と思うけれどくすんでくる肌や眼。代謝が明らかに落ちてむくみやすくなった身体。

そんな自分では取りきれないものをお掃除するというトリートメントが、痛いものでも辛いものでもなく、オイルマッサージという気持ちのよいものでできるなんて、夢みたいだと思う。

確かに、車も走行距離が増えてば増えるほどガタがくるも分、定期的に車検に出してきちんとメンテナンスしながら乗り続けるのが基本だ。お手入れもお掃除も、すればするほど長持ちするのは人間にも言えることなのかもしれない。

 

written by Saki IKEDA

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