再びエミさんが静かに運転する車で更に森を奥へ、別荘地へと向かった。
「エミさん、そういえば小屋の名前の由来ってなんだったんでしたっけ?
前回大悟さんに聞きそびれてしまったんですよね。」
窓の外にながれてゆく白樺の木々をみながら、エミさんに私はそう尋ねる。
「ふふ、ヨクサルですよね。北欧フィンランドの、ムーミン谷に住む仲間たちの中のスナフキンのお父さん、ヨクサル。
ヨクサルってね、人に言われたからそれを守るだとか、そういったことを全くしなくって、自分がどうしたいか、をいつも最優先事項にしているキャラクターなの。言われたことをただ守るの、苦手みたい。禁止事項とか、看板とか全然意に介さないの。徹底的にそうだから、自由人とか享楽主義者とか、放逸的とか、言われるみたいですけれど、どうでしょうね、ふふふ。
何かになりたがろうとしないとこと、何かを作りだそうとしないところ、流れのままに生きていることを、周りのヒトに時に無気力だと思われているようですけれど、
ただその場を生きている、じぶんの心の声に従ってただ今を生きている、という点に関してはちょっとヨーガ的なところもあるのかなあって私は思ったりするのよね。」
思った以上に複雑な回答が返ってきて、私は少したじろいでしまった。
そして、うーーん!と考えてしまった。
今、私が日常の中で葛藤していることって、その部分かもしれない。
自分の心の声に従って生きていきたいという気持ちと、周りから求められる規範やルール。
そういえばヨクサルの小屋は、みたこともない道具がたくさん置いてあるのに、普通のホテルのような注意書きが張り紙が一切無かったなあと思い出す。
あの空間の気持ちよさや居心地の良さはそこから来るのもあったのかもしれない。そして、そんな大悟さんの想いを、しっかりと感じた。
「さあ、到着しましたよ。お疲れ様でした。」
ニッコリ笑いながらドアを開けて、エミさんが
荷物を持って先に、小屋への坂を下りて行く。
私もエミさんについて、春の土の香りのする坂を下りて行った。
大きな窓からは、マッサージベッドが見える。
ドアを開けると、心の中の秋の思い出そのままに、暖かな木のカーブに囲まれた
ヨクサルの小屋の景色が広がった。近くの沢の音も、微かに聞こえる。
森からの、木々の、いい香り。
テーブルには既に夕食の準備が整えられていて、こんなメニュー表が置いてあった。
〜4月のMerta SariリトリートDinner〜
<前菜>
春キャベツと桜海老のクミン炒め
シャドウクイーンチップス
空豆と筍のジュレ
<スープ>
あさりとあおさのスープ
<メイン>
鰆とうどのグリル
<パン>
マルカフェ自家製 国産雑穀のクリスプブレッド
or
ビタバァーレ(大麦)
「ゆっくりと荷ほどきをしてくださいね。日暮れ前に森の散策に行かれるのも良いかもしれません。
アーユルヴェーダの排毒は、午前中か日の出ているうちが適しているので、トリートメントは明日に行いましょう。
日が暮れたら、夕食にいたしますね。」
そういうとまたエミさんは不思議とカフェの顔に戻り、ニッコリと笑った。
森に、小屋に、エミさんのつくるご飯に、そしてセラピストでありヨギーであるエミさんに、すべてを委ねていいんだという安心感で、既に心はまあるく満たされていた。
そしてこの春のリトリートで、自分のなかから何がデトックスされていくのかと想うと
今から始める一泊二日のリトリートへの静かなワクワクが止まらなかった。
(New moon café 森のリトリート 〜春のデトックス編〜 前編 完)
Written by Saki Ikeda
New moon Cafe Merta Sari もくじ
New!4月の新月
◯Story-ものがたり
◯Recipe-レシピとオススメ
[4⽉の 前菜] シャドウクイーンチップス [4⽉の 前菜] 空豆と筍のジュレ [4⽉の スープ]あさりとあおさのスープ[4⽉のメイン]鰆とうどのグリル [4⽉のパン] マルカフェ自家製 国産雑穀のクリスプブレッド or ビタバァーレ(大麦)