[New moon cafe Merta Sari] 第2話 7月文月 ものがたり その1

[New moon cafe Merta Sari]  第2話 7月文月 ものがたり その1

音に気付いたお店の方がこちらを振り向き、いらっしゃいませと微笑んだ。前と寸分も変わらぬ笑顔、軽やかで静かな身のこなし。

よかった、また来られたんだ。

一ヶ月ぶりの店内、そしてお店の変わらぬ存在に少しホッとして、私は店内を見回し、先月と同じ窓際の明るい場所に席をとった。

左手に開けるウッドデッキには、先月よりも青々と力強く茂った木々が広がっている。

わずかこの28日間で、季節は様変わりした。体がどこかがひんやりと冷えていて、靴下が必要だったあの雨の日に覗いた木々と、今日のこのギラギラとした太陽の光線の中にある木々とでは全く表情が違う。

風が揺らす緑の枝は大きく力強く、土は硬く乾いている。

アスファルトの街では嗅ぐことのない、熱で温められた土から立ち上る、独特の優しい匂いがフッと鼻をくすぐった瞬間、

一瞬にして子どもの頃の夏休みの田舎のおばあちゃんの家にタイムスリップした。

青々とした田んぼが一面に広がり、風がその中を駆けてゆく。
虫の声、鳥のさえずり、遠くから聞こえて来る子どもの声。

「こちらが今月のメニューになります」という言葉にハッと目を上げると、お店の方が、湯気の立つグラスとメニューを、テーブルに静かに置いた。

彼女の纏う空気に、無条件にホッと顔が緩む。

 

***

 

外は汗ばむような陽気なのに、手元のグラスはまたしてもお白湯だった。

汗をかいたグラスに入った冷たい氷水を想像していたので、少しびっくりすると、それに気づいたお店の方が

「夏バテにはお白湯なんですよ。」と言ってにっこり微笑んだ。

「え、そうなんですか?」

意外に思って尋ねる。

確かに梅雨が明けてからの今年の暑さは尋常ではなく、食欲はぐんと落ちていた。

だから今こそスタミナをつけなくては、とお肉や鰻を食べなくてはと弱った胃腸を励ますかのように、無理やり思っていたところだったのだった。

「お白湯は体内を浄化し、消化力を整えてくれる飲み物なんです。

夏バテの大元の原因は消化力が弱くなってしまうことですから。」

にっこりと微笑みながらお店の方が言った。

「弱った消化力の状態でキンキンに冷えたものや、消化に負担のかかる油っぽいもの、お肉などをいただくことは、逆に胃腸を弱らせてしまうんです。

例えば、火力の弱った焚き火に、どんどん太い薪を入れてしまうようなもので。そうすると、ね。火がますます弱っていって、最後には結局消えてしまうでしょう?

なので、まずはどんな薪でも燃やせるよう、焚き火の火自体を大きく強くしていく、つまりどんな食べ物も消化し、自分のエネルギーに変えて行けるよう消化力を上げてゆくのが、お白湯という飲み物なんですよ。」

こんな味の付いていないまっさらなお湯にそんな力があるなんて全然知らなかった、

と意外に思いながらも、お店の方のその流れるような解説を聞くと確かに、お白湯をちびちびと飲むごとに、少しずつ弱っていた胃に力が戻ってくるような気がしてきた。

窓辺にいると時折感じる木陰からの風は、

クーラーの風とは違う優しい肌触りで

体もホッと落ち着いてくる。

改めて、今日は何を食べようかなと少し湧いてきた食欲を感じながら、ゆっくりとメニューを開く。

 

***

 

1ページ目には

----本格的な夏の始まったこの季節、食欲が落ちていたり、身体がバテやすかったりしていませんか?

と書かれており、

----その様なあなたの元気が回復するよう、今月は、「ガーリック」を季節のスパイスとして、また、清涼感あるハーブをふんだんに使用したお料理をお出し致します。

----古来から、食と薬の中間に位置するハーブやスパイス。この季節の消化力を助けてくれる食材の力を新月のスタートのこの日に感じてみてくださいね。

と、物語の序章のような言葉とともに

こんなメニューが続いていた。


〜Drink

<7月のnew moonビオワイン>  glass 800yen

  • コート・ドゥ・プロヴァンス2016(ロゼ)

———もぎたての苺にホイップクリームをのせてミントを添えたようなクリーミーで楽しい香り。味わいは打って変わって、ミネラリーで複雑さと奥行きあり。その後、じわじわと広がる果実味と長い余韻。上質なミネラルはロゼワインの新たな可能性を感じさせます。キリリと冷やしてサーブいたします。

<7月のnew moon オーガニックスパイスティー> 850yen

  • 清涼感ある夏のブラフミーティー Merta Sari ブレンド

———石垣島の力強いブラフミーにミント、ローズマリー、レモングラス、コリアンダーシードをブレンドしました。ホットでもアイスでも清涼感が楽しめます。

〜Lunch

 

<7月のnew moonデリプレート> 1,600yen

  • 西瓜と山羊のチーズのサラダ
  • ナスとミントと鶏のヨーグルトサラダ
  • ズッキーニのバジルソテー(ギーで風味よく)
  • 夏野菜のクスクスタブレ

<7月のnew moon旬のお魚ランチ>   1,600yen

  • 薬味たっぷりのクラムライス(アサリとパクチーのスープご飯)

※デリプレートには7月のスープとご飯or パンが付いてきます

<7月のスープ>

採れたてトウモロコシのポタージュ

<7月のご飯/パン>

   クレソンご飯(カッテージチーズで涼やかに)/Yatsugatake country kitchenさんのカンパーニュ


 

全く味の予想がつかないメニューに戸惑いながらも、

今回は先月頼まなかったデリプレートの方を注文してみる。

クレソンのご飯とカンパーニュは、

クスクスでお腹がいっぱいになってしまいそうだったので

カンパーニュを、とお願いしてみた。

 

Written by Saki IKEDA

その2へつづく

 

New moon Cafe Merta Sari もくじ

7月の新月

◯Story-ものがたり

《ものがたり》第2話 七月文月の新月 その1−1
《ものがたり》第2話 七月文月の新月 その1−2
《ものがたり》第2話 七月文月の新月 その1−3(最終話)

◯Recipe-レシピとオススメのお店

《Recipe》薬味たっぷりのクラムライス
《Recipe》採れたてトウモロコシのポタージュ by Tombouctou
《Recipe》スイカと山羊のチーズのサラダ
《Recipe》ズッキーニのバジルソテー(ギーで風味よく)
《Recipe》ナスとミントと鶏のヨーグルトサラダ
《Recipe》クレソンご飯(カッテージチーズで涼やかに)
《Recipe》夏野菜のクスクスタブレ

《Recommend》カンパーニュ by Yatsugatake country kitchen bakery
《Recommend》ビオワイン: コート・ドゥ・プロヴァンス ロゼ2016 (ロゼ)